脚本

「 アイディア が降りてきた」のメカニズムを解説します

「降りてくる」は誰でも持ってる能力です

例えばミュージシャンが、
「バーで飲んでたら頭の中でメロディが鳴って、店にあったギターを借りて作曲した」
なんて感じのこと言ったりするじゃないですか。

あれって本当なの?って思いません!?

や、「ギターを適当に弾いてたら思いついた」とかなら分かるんですよ。
そりゃ曲を考えてたんだから思いつくこともあるでしょう。

でも「バーで飲んでたら」って何!!
ギターすら弾いてないときに突然降りてくるってどういうことですか。

──って思ったことありますよね?
僕はずっと不思議でした。

でも、脚本家を目指すようになって分かりました。
実はあれにはメカニズムがあります。

決して特殊な能力ではありません。
誰にでも備わっている能力なんです。

何もないところに「降りてくる」はありえない

実は「降りてくる」っていう表現は正確ではありません。

何かくつろいでいる時とか、何でもない時に「あれっ!? あ、これで良いのか」って
ずっと悩んでたことの答えを急に思いついたりすることはあります。
だから冒頭に書いた「バーで飲んでたら」は嘘ではありません。

ただ「降りてくる」はちょっと違うと思うんです。

だって「降りてくる」って言ったら、何もないところに出てくるみたいじゃないですか。
でも何もないところに降りてくるなんて、そんなわけがないんですよ。

このツイートにあるように、あの「バーで飲んでたら」は考え尽くした後の話なんです。

めちゃくちゃ考えた人が、たまたまバーにいるときに思いつくだけ。

リラックスすることで頭が回りやすくなるのか、会話やBGMや空気感に触発されるのか、
それとも環境が変わることで頭の中の何かが切り替わるのか、理由はよく分かりません。

ただ、何もないところに「降りてくる」わけではない、ということは確かです。
たくさんのインプットをし、思考をめぐらせ、経験し……という下地をしっかり作った人が、
たまたまバーで飲んでるときに思いつくだけのことです。

「降りてくる」という表現が悪いんだと思います

メカニズムを解説しますなんて言って、
結局、シンプルに努力した人がひらめくという
当たり前のことを言っているだけじゃないかと思われるかもしれません。

でもそうなんです。
当たり前のことなんですよ。

「降りてくる」なんて言うからまるで特別なことのようですけど、
要するにたくさんインプットして、たくさん考えて、たくさん経験したら
知見が貯まるからアイディアが出やすくなるっていうだけです。

実際にはこんな感じです。

小説家も同様みたいです

小説家の阿刀田高さんは著書『アイデアを捜せ』の中でこうおっしゃっています。

 そのアイデアをどうやって見出すか。システマティックな方法があるわけではない。ただコーヒーを飲み、タバコを喫い、散歩をし、本を読み、列車の外に映る風景を眺め、アイデアの出現するのを待っている。待ち続ける時には夢の中でさえ捜している。
 すると……突然、アイデアの気配を感ずる。
 緊張が全身に走る。

阿刀田高著『アイデアを捜せ』文春文庫

夢の中でまで考えて、ようやく「気配を感ずる」。
「待ち続ける」と書いていますが、コーヒーを飲んだり散歩をしたり、
いろんなことをしながら、ずっと考えているんです。

しかもこんだけ待つってことは、いつ出てくるかわからないってことです。

それに「気配を感ずる」だけ。決して使えるとは言ってません。
再び引用します。

 おもしろいことに、こうしたアイデアには、さながら柔道の競技のように、一本、技あり、有効などなど……段階的な区分がある。

阿刀田高著『アイデアを捜せ』文春文庫

その アイディア は、そのまま一本の小説になる場合もあれば、
小ネタとして使える程度の場合もあるそうです。

いつ出てくるかもわからないし、使えるかどうかもわからない。
──そう考えると、なかなか厳しいですね。

でもこのメカニズムを知っていると強いです

結局、インプットや思考や経験の量を増やせと言っているだけなので
ガッカリした方もいらっしゃるかもしれませんが、

たくさんのインプットをし、思考をめぐらせ、経験する。
これを実直におこなっていれば、いつか何らかのアイディアは思いつく。

このメカニズムを知っているのと知らないのとでは安心感が全然違います。

今やっていることが徒労に終わってしまうかもしれないと思いながら
やり続けるのはとてもしんどいんです。

それに、慣れている人は「そろそろ思いつきそうだな」というのが
何となくわかるようになります。
こうなると強いです。

少しでも早く アイディア を思いつくために

いつ出てくるかも、使えるかどうかもわからない。
だったらせめて少しでも早く思いつきたい。

そう思って脚本の師匠に聞いてみたことがあります。
すると「取材するしかない」と言われました。

たくさんインプットして、たくさん考えて、たくさん経験したら
知見が貯まるからアイディアが出やすくなる。

であれば、少しでも早く出てくるようにするには、
さらにインプットをし、さらに考え、さらに経験するのが結局早いです。

例えば主人公が画家として、どんなタッチの絵を描くのかを考える場合、
絵画の知識がないと思いつくはずがないですよね。

どんな アイディア を考えている場合でも知識は必要です。

いつ現れるのか、どのレベルのものが現れるのかも分かりません。
ただただ諦めずに捜しつづけ、考えつづけた人のところにだけ現れるのです。

実は「降りてくる」は誰もが経験済み?

そしてこの「降りてくる」という現象は、
実は誰もが経験したことのあることなんじゃないかと僕は思っています。

それはどういうことかというと、

例えば探し物をしてて直前の行動とか辿ってみるけど見つからなくて、
一旦あきらめて他のことしてたら
「あれ、あそこ探したっけ?」
とひらめいて、まさかと思いつつ探してみたら、あった!!

──みたいなやつ。
あるでしょ?

まったく同じとは言わないけど、基本的には、あれと同じメカニズムだと思っています。

まとめ

「 アイディア が降りてくる」のメカニズムを解説しましたがいかがでしょうか。

何か特別な才能と思っていた人もいるかもしれませんが、実はごくごく普通のこと。
誰もが再現可能なことだと思います。

ただ多くの人は アイディア が思いつくまで考えないであきらめてしまいます。

例えば以前、僕が働いている会社で新しいサービスの名前を考えたことがあります。

採用されたら賞金が出るということで、みんなでチャレンジしたのですが、
みんないくつか案を出したら考えるのをやめてしまいました。

僕もそうでした。

実はその表彰を忘年会でおこなうということが決まっていたのですが、
当日になっても良い案は出てきていませんでした。
そこで担当者から「あと一つで良いから考えて」と声をかけられました。

その結果、僕がギリギリで提出した案が採用されて、賞金をいただくことができたのです。

最後のあと一つを提出したのは僕の他には確かあと1人だけでした。
おそらく「もう出てこないよ」と思ってハナからあきらめてしまった人と、
「考えたら出てくるはずだ」と思って考えつづけた人のわずかな差なのだと思います。

考え尽くしてもまだ考えつづけたとき、
頭の中に溜まった知識や思考や経験がつながって、ひょっこりと現れる。
アイディア ってそういうものです。

だから頭の片隅に残しておくだけでも良いので、考えつづけてください。
そうすれば必ず「 アイディア が降りてくる」はずです。

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